‏ Mark 10

第七項 イエズスペレア地方に留り遂にエルサレムに赴き給ふ

1 イエズス此處を立出でて、ヨルダン[河]の彼方なるユデアの境に至り給ひしに、群衆復其許に集りければ、例の如く復彼等を教へ居給へり。 2時にファリザイ人等近づきて之を試み、人其妻を出すは可か、と問ひしに、 3イエズス答へて、モイゼは汝等に何を命ぜしぞ、と曰ひしかば、 4彼等云ふ、モイゼは離縁状を書きて妻を出す事を許せり。 5イエズス彼等に答へて曰ひけるは、彼は汝等の心の頑固なるによりてこそ、彼掟を汝等に書與へつれ。 6然れど開闢の初に、神は人を男女に造り給へり、 7此故に人は父母を離れて其妻に合し、 8兩人一體となるべし。然れば既に二人に非ずして一體なり。 9故に神の合せ給ひし所、人之を分つべからず、と。 10弟子等家に於て、復同じ事に就きて問ひしかば、 11彼等に曰ひけるは、誰にても妻を出して他に娶るは、是彼女に對して姦淫を行ふなり。 12又妻其夫を棄てて他に嫁ぐは、是姦淫を行ふなり、と。 13時にイエズスの是に触れ給はん為に、人々幼兒等を差出したるに、弟子等其差出す人を叱りければ、 14イエズス之を見て憤り給ひ、彼等に曰ひけるは、幼兒等の我に來るを容せ、之を禁ずること勿れ、神の國は斯の如き人の為なればなり。 15我誠に汝等に告ぐ、総て幼兒の如くに神の國を承けざる人は、竟にに是に入らじ、と。 16斯て幼兒等を抱き、按手して之を祝し居給へり。 17イエズス途に出で給ひしに、一人馳來り、其前に跪きて、善き師よ、永遠の生命を得んには、我何を為すべきか、と問ひければ、 18イエズス是に曰ひけるは、何ぞ我を善きと云ふや、神獨の外に善きものなし、 19汝は掟を知れり、姦淫する勿れ、殺す勿れ、盗む勿れ、僞證する勿れ、害する勿れ、汝の父母を敬へ、と是なり、と。 20彼答へて、師よ、我幼年より悉く之を守れり、と云ひしかば、 21イエズス是に目を注ぎ、寵みて曰ひけるは、汝尚一を缼けり、往きて有てる物を悉く売り之を貧者に施せ、然らば天に於て寳を得ん、而して來りて我に從へ、と。 22彼此言に悲み憂ひつつ去れり。其は多くの財産を有てる者なればなり。 23イエズス見廻しつつ弟子等に、難い哉金を有てる人の神の國に入る事、と曰ひければ、 24弟子等此言に驚きしかば、イエズス又答へて曰ひけるは、小子よ、難い哉金を恃める人の神の國に入る事。 25富者が神の國に入るよりも、駱駝が針の孔を通るは易し、と。 26彼等愈怪しみて語合ひけるは、然らば誰か救はるることを得ん、と。 27イエズス彼等に目を注ぎつつ曰ひけるは、其は人に於て能はざる所なれども、神に於ては然らず、神に於ては何事も能はざる所なし、と。 28ペトロイエズスに向ひて、然て我等は一切を棄てて汝に從ひたり、と云出でたるに、 29イエズス答へて曰ひけるは、我誠に汝等に告ぐ、総て我為また福音の為に、或は家、或は兄弟、或は姉妹、或は父、或は母、或は子等、或は田畑を離るる人は、 30誰にてもあれ、百倍程を受けざるはなし、即今此世にては、家、兄弟、姉妹、母、子等、田畑を迫害と共に[受け、]後の世にては、永遠の生命を受けざるはなし。 31但多く先なる人は後になり、後なる人は先になるべし、と。 32エルザレムに上る途中、イエズス弟子等に先ち給ふを、彼等驚き且怖れつつ從ひ居りしに、イエズス再十二人を近づけて、己に起るべき事を語出で給ひけるは、 33看よ、我等エルザレムに上る。斯て人の子は司祭長、律法學士、長老等に売られ、彼等は之を死罪に處し、異邦人に付し、 34且之を弄り、之に唾し、之を鞭ちて殺さん、而して三日目に復活すべし、と。 35時に、ゼベデオの子ヤコボとヨハネとイエズスに近づきて云ひけるは、師よ、望むらくは、我等の願ふ所を、何事にもあれ我等に為し給はん事を、と。 36イエズス、我が汝等に何を為さん事を願ふぞ、と曰ひければ、 37彼等汝の光榮の中に一人は其右、一人は其左に坐することを我等に得させ給へ、と云ひしに、 38イエズス曰ひけるは、汝等は願ふ所を知らず、汝等我が飲む杯を飲み、我が洗せらるる洗禮にて洗せられ得るか、と。 39彼等、我等は得、と云ひしに、イエズス曰ひけるは、汝等實に我が飲む杯を飲まん、又我が洗せらるる洗禮にて洗せられん、 40然れど我が右或は左に坐するは、我が汝等に得さすべき事に非ず、待設けられたる人々に得さすべきなり、と。 41十人の者之を聞きて、大いにヤコボとヨハネとを憤り始めければ、 42イエズス彼等を呼びて曰ひけるは、異邦人を司ると見ゆる人が之に主となり、又其君たる人が権を其上に振ふは、汝等の知れる所なり。 43然れど汝等の中に於ては然らず、却て誰にもあれ、大いならんと欲する者は汝等の召使となり、 44誰にもあれ、汝等の中に第一の者たらんと欲する者は一同の僕となるべし。 45即人の子の來れるも、仕へらるる為に非ず、却て仕へん為、且衆人の贖として生命を與へん為なり、と。 46斯て皆エリコに至りしが、イエズス弟子等と夥しき群衆を伴ひてエリコを出で給ふ時、チメオの子なる瞽者バルチメオ、路傍に坐して施を乞ひ居りしに、 47是ナザレトのイエズスなりと聞くや、叫び出でてダヴィドの子イエズスよ、我を憫み給へ、と云ひければ、 48多くの人彼を叱りて黙せしめんとすれども、彼益激しく、ダヴィドの子よ、我を憫み給へ、と呼はり居たり。 49イエズス立止りて、彼を呼ぶ事を命じ給ひしかば、人々瞽者を呼びて、心安かれ、起て、汝を召し給ふぞ、と云ふや、 50瞽者上着を抛棄て、躍揚りて御許に至りしが、 51イエズス答へて、我に何を為られん事を欲するぞ、と曰ひしに瞽者は、ラッボニ、我目の見えん事を、と云へり。 52イエズス之に向ひて、往け、汝の信仰汝を救へり、と曰ひしかば、彼忽見る事を得て途中までイエズスに從ひ行けり。

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